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乾燥卵胞子の発芽率の検証

2015.7.25(最終更新2018.8.20)


飼っている車軸藻類は、たま〜に植替えをするたびに土を乾燥させてとっておくことにしています。中に含まれる卵胞子は乾燥させても死なず、保存がきくのです。
しかし乾燥状態でいったい何年ぐらい持つものかなあとちょっと不安だったりします。
ちょうど部員がテガヌマフラスコモの何かをやりたいと言ってきたので、保存してある卵胞子の発芽率を検証してみようということになりました。

2009年夏に保存した土(テガヌマフラスコモを飼っていたのだがシンフラスコモと思われる物が混入してしまったので乾かした)を少量とり出して水に入れ、卵胞子を100個ほどピックアップして寒天培地に植え込み、発芽率を調べようという構想でスタート(2015年6月10日)。
約1週間でピックアップを終えようとしていたのですが、作業は約1週間ではかばかしくないままストップ。
放置状態で1ヶ月を過ぎてしまい、水を入れたシャーレの中で(たぶん)シンフラスコモが続々発芽しているという事態に相成りました。
この時点で部員は半分リタイア。

すでに発芽してしまったので、使っていたシャーレ6個のうち1個の発芽数とシャーレの中に残っている卵胞子数から発芽率を推定するということにしました。
卵胞子はおおむね3種類。

3種類
 左が小さくて細身、らせん縁が顕著   真ん中は大きくて丸く、らせん縁が目立たない   右端はとても大きくて丸く、らせん縁が目立たない
小さく細身
 「小さく細身」の拡大
まるっこい
 上が「大きく丸い」下が「とても大きく丸い」
 (写真背景の格子はすべて0.1mm角)

発芽していたのは6個で、すべて「小さくて細身」のタイプ。これがシンフラスコモであろうと。
シャーレ内には47個残っていたので合計53個中6個発芽、発芽率約10%。発芽していない卵胞子で数え漏らしたものもあるでしょうから、ま、こんなところかと。
6年経ってこのぐらい発芽能力があるなら、とりあえず今の保存方法で問題はないだろうと思います。

ところが上の計測が終了したところで(水を入れてから1ヶ月と10日ほど経ってます)別のシャーレをのぞくとあらあらたくさん発芽しているわ。てなわけでこのシャーレで同じ計測をしてみると、なんと151個の「小さくて細身」の卵胞子が発芽していて、残った卵胞子は66個。
217個中の151個ですからなんと発芽率約70%。こんなに発芽しちゃって良いのだろうか。
車軸藻はパイオニアの面が強いのでたとえ条件がそろっても発芽率は低い、水たまりが出来たときなど、うかつに全部発芽してしまうとその後すぐに干上がるなど条件が悪化したとき全滅してしまうから。と思っていたのでかなり意外です。

ちなみに上の2つの計測では水を入れて1週間の間にピックアップ済みだったもの(6つのシャーレで合計95個ほど)は無視しています。水を入れたシャーレで保管していますがこちらは全く発芽せず。土がないと条件はそろわない?

さて、この「シンフラスコモ」なのですが、上の写真でもわかるように、らせん縁ははっきり5本。
日本淡水藻図鑑の「3〜4本」という記述とは異なっています。
大丈夫かなあ。、、、。

発芽したとこ
 発芽した卵胞子(一部)

発芽したまま放置して、多少育ったのを見た限りでは、「最終枝は2〜3細胞が基本だが1細胞もありそう。先っぽは小さい細胞になるのが基本だが2細胞の時は長く伸びる時もある」といったところ。テガヌマフラスコモではあり得ないかな(テガヌマの最終枝は2細胞)。
少し育ててから改めて検討した結果、やはりシンフラスコモってことにしました。
詳しくは シンフラスコモ 解説ページ(別ウィンドウ(タブ)で開きます)にて。


では次にテガヌマフラスコモ。部員がリタイアしなかった半分です。
上の写真の「大きく丸い」がテガヌマフラスコモの未熟な卵胞子、「とても大きく丸い」が成熟卵胞子と見立てています。しかし結局「とても大きく丸い」は3つしか見つけ出せず、その3つと「大きく丸い」のうち色が濃いめのもの37個、合計40個を管ビンにつくった寒天培地(1%+ハイポネクス微粉0.1%)に1個ずつ埋め込んで発芽率を出す構想。

しかしですよ、これらの卵胞子は最初に水を入れて一ヶ月半、一つも発芽してないのです。いまさら寒天培地に埋め込んでも、発芽してくれるのでありましょうか、、、。
(2015年7月29日スタート)

管ビン
 フタが、、、。  はじめてやったのでご勘弁を。

管ビン拡大
 小さい点が卵胞子。こんな感じで管ビンの壁沿いに埋めて、経過を観察。

そして2ヶ月。1個も発芽しませんでした(カビ・ランソウに取り巻かれて見えなくなったものもありますが)。
この条件では発芽しないのか、未熟なので発芽しないかのどちらかだと判断して、今度はヒートショック路線で。
10月6日〜7日、比較的カビ等の生えていない23本を選んで、約24時間40℃にしたインキュベータに入れて再び室温に。(でも結構日の当たる所に置いているので既にこのぐらいの温度にはなっていたかも、、、)。
1ヶ月経ったところであきらめました(11月11日・気が早すぎる?)。

一方、寒天培地じゃなくて土の培地ならどうだろうということで、新しい卵胞子を6月と同じ保存した土からピックアップ。
慣れてきたせいもあり、最初から土を洗ったこともあり(前回は途中からプラスチックの目の細かい茶こしを使って細かい泥を流して卵胞子を捜索)、2日で「とても大きく丸い」卵胞子が5個見つかりました。
「大きく丸い」も50個ほど見つけた中から色が出来るだけ茶色いものを35個選び、合計40個を管ビン(底に腐葉土、上に黒土を入れて滅菌し、滅菌水を注いだもの)1本に1個ずつ移植(11月10日)。

移植
 パスツールピペットで吸い上げた卵胞子を滴下。土の表面に落下した卵胞子(のあたり)をガラス棒でぐいっと押し込む。
管ビン
 窓際に並べておく

すると「大きく丸い」卵胞子を入れた管ビン35本中、1月〜2月に5本、4月〜5月に8本の合計13本から発芽しました。発芽率3割〜4割というところです。

さらに2年後(2018年7月末)、部員はとっくに卒業し、かたづけそこなって放置していた管ビンをふとみると「大きく丸い」の残り22本からさらに2本発芽していました。発芽率4割超えですね。シンフラスコモと違い、条件がそろっても一部温存して、また翌年や翌々年に発芽する路線なのでしょうか?

と、いうわけで、「大きく丸い」が未熟卵胞子だという見立てはあっさり外れました。逆に「とても大きく丸い」の管ビンからは1本も発芽しない(全部で5本だけどね)という困ったことに。

発芽した管ビン
 管ビンの中で育った(たぶん)テガヌマフラスコモ

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